2023年10月の大気汚染防止法及び石綿障害予防規則の一部改正により、建築物等の解体等工事の前には建築物石綿含有建材調査者等の有資格者による事前調査の実施が義務化されました。
工作物についても、種類や使用目的によりアスベスト含有資材が多く使用されていることが分かっており、これらの解体等工事前にもアスベスト事前調査が必要になります。
調査が必要な工作物には多くの種類があり、用途に応じて様々な部位にアスベスト含有資材が使用されていることから、調査には高い専門知識が求められます。
以上のことから、工作物の事前調査についても「工作物石綿事前調査者」の資格を保有する者による実施が義務化され、2026年1月1日以降着工の工事からは有資格者による調査でないと調査は無効になります(一部工作物は、建築物石綿含有建材調査者等による実施でも可能です)。
本記事では、工作物におけるアスベスト事前調査について押さえておきたいポイントを解説していきます。
要約
- 2026年1月1日以降、工作物の解体等工事には有資格者による事前調査の実施が義務化
- 事前調査が義務付けられている工作物は、特定工作物17種とその他工作物に指定されているもの
- 工作物は定期的に点検等が実施されているため、サンプリングを要する際は、機械の運転停止等、事前計画を立てたうえで実施することが重要

1 アスベスト事前調査が必要な工作物とは?
1-1 事前調査の対象となる「特定工作物」全17種類一覧
アスベスト事前調査が必要な工作物については、特定工作物告示に掲げる以下の17種類の工作物とその他の工作物が定められています。
(出典:厚生労働省「令和2年厚労省告示第278号、一部改正令和5年厚労省告示第89号」)
| 対象工作物 | 事前調査者資格 |
|---|---|
| ①反応槽 ②加熱炉 ③ボイラー・圧力容器 ④焼却設備 ⑤発電設備(太陽光発電設備及び風力発電設備を除く) ⑥変電設備 ⑦配電設備 ⑧送電設備 ⑨配管設備(建築物に設ける給水・排水・換気・暖房・冷房・排煙設備等の建築設備を除く) ⑩貯蔵設備(穀物を貯蔵するための設備を除く) | ・工作物石綿事前調査者 |
| <建築物一体設備等> ⑪煙突(建築物に設ける排煙設備等の建築設備を除く) ⑫トンネルの天井板 ⑬プラットホームの上家 ⑭遮音壁 ⑮軽量盛土保護パネル ⑯鉄道の駅の地下式構造部分の壁及び天井部 ⑰観光用エレベーターの昇降路の囲い(建築物に該当するものを除く) | ・工作物石綿事前調査者※1 ・(一般・特定)建築物石綿含有建材調査者※2 ・2023年9月までに一般社団法人 日本アスベスト調査診断協会に登録された者※3 |
| <その他工作物> 建築物以外のもので、土地、建築物又は工作物に設置されているもの又は設置されていたもののうち、上記以外のもの その他工作物の例 エレベーター(かご部)、エスカレーター、コンクリート擁壁、電柱、公園遊具、鳥居、仮設構造物、遊戯施設など | 塗料、その他の石綿等が使用されているおそれのある材料の除去等の作業係る事前調査 ・上欄※1~3に挙げた資格者による調査が必要 |
1-2 【種類別】工作物のアスベスト使用部位を解説
上述ではアスベスト事前調査が必要な工作物について紹介しました。
以降は、工作物の調査時に気を付けるポイントについて解説していきます。
工作物の種類ごとにアスベスト含有資材が含まれている部位の例をまとめましたので、実際の調査時にお役立てください。
【炉設備】
①反応槽:化学物質等の製造過程において、化学反応を起こさせるための装置です。使用分野は、石油化学プラントをはじめとする化学工業分野など、多岐にわたります。
・反応塔におけるスカート部分の保温材
・配管接合部のガスケットやパッキン
・マンホール部のガスケット など
②加熱炉:溶鉱炉・セメント焼成炉・ガラス溶解炉・アーク炉など、耐火物で覆われた加熱室を有するもの全般のことで、多くの産業分野で用途ごとに様々な種類があります。
・配管接合部のガスケットやパッキン
・炉内の耐火物
・炉殻の近傍層における石綿含有資材など
③ボイラー、圧力容器
・高温になる本体部分や付属配管部分における保温材
・配管接合部のガスケットやパッキン
・火炉や煙突などの部分における不定形耐火物
・ダクトの接続部分におけるシール材 など
④焼却設備:焼却施設は、焼却炉・配管・煙突などの焼却設備とこれらを格納している建屋からなります。
・焼却設備
燃焼室におけるキャスタブル耐火物や断熱ボード
点検口におけるシール材
配管設備における保温材やフランジガスケット
設備ダクトにおけるフランジガスケットや紡織加工品 など
・建屋
壁や柱、梁における吹付材や断熱ボード など
【電気設備】
⑤発電設備、⑥変電設備
・壁や天井における吹付材・保温材・耐火ボード
・懸垂碍子などに含まれる緩衝材
・電線における増粘剤
・ケーブル等の建物貫通部における耐火仕切材やシール材、絶縁材、摩擦材 など
⑦配電設備
・地中線の管路における石綿セメント管など
⑧送電設備
・地中線の管路における石綿セメント管
・電線内部や電柱のコンクリート補修材における増粘剤
・ケーブル敷設時の滑剤や接続箱紡織層内混和物 など
【配管及び貯蔵設備】
⑨配管設備:建築物に設けられている給水・排水・換気・暖房・冷房・排煙設備などを除きます。
・配管部の保温材や接合部のシール材
・耐火二層管
・石綿セメント管(地中に敷設された給水管などに使用)など
⑩貯蔵設備:原油や石油化学製品などの液体を貯蔵するための液体用タンクと、圧縮ガスや天然ガスなどを貯蔵するための気体用タンクがあります。
・石綿含有資材を使用した保温材、断熱材
以降は、建築物一体設備等に分類されるものです。
⑪煙突
・煙突・煙道内部における断熱材耐火材
・建屋の防火材 など
⑫トンネルの天井板
・天井ボード、スレート板
・トンネル内における断熱材 など
⑬プラットホームの上家
・屋根部におけるスレート波板や天井材
・区画貫通部における石綿材 など
⑭遮音壁、⑮軽量盛土保護パネル
・壁やパネルにおけるスレート板や押出成形セメント板 など
⑯鉄道の駅の地下式構造部分の壁及び天井部
・壁や天井部における耐火被覆材やスレート板 など
⑰観光用エレベーターの昇降路の囲い
・耐火被覆材や補修モルタル など
【その他工作物等】
その他の工作物の代表的なものについては、以下の通りとなります。
〇エレベーターかご部
・巻上機のブレーキパッド、鉄板の制振塗料、床材 など
〇エレベーター昇降路
・耐火被覆材、扉周りのシール材 など・その他の構造物等
・工作物の塗材・下地調整塗材、補修モルタル など
以上、工作物毎にアスベストが使用されている部位を説明してきましたが、上記以外の部位でもアスベストが使用されている可能性があります。
実際の調査では、対象工作物に関する仕様書・点検記録などの資料調査、現地調査による観察、必要に応じて検体の採取・分析の実施を心掛け、アスベスト含有資材の見落としが無いよう注意が必要です。

2 工作物におけるアスベスト事前調査の流れと3つの注意点
工作物の解体等工事におけるアスベスト事前調査の流れは、建築物におけるアスベスト事前調査と同様ですが、いくつか注意点があります。
ここでは、工作物のアスベスト事前調査時に押さえておきたいポイントを解説していきます。
2-1 ポイント1:施設管理者等へのヒアリングの重要性
書面調査時に確認した設計図書等は、必ずしも工作物の現状を表したものとは限りません。
特定工作物の多くは、法令により定期点検・定期修理が義務付けられています。
これらの情報は、改修銘板や点検記録、施設管理者や点検業者など関係者へのヒアリングから得られることがあります。
得られた情報は、石綿含有資材の使用箇所を推定するうえでとても重要となりますので、必ず確認しましょう。
2-2 ポイント2:安全に配慮した調査計画
書面・現地調査では、アスベスト含有の有無が判断できない場合、アスベスト含有資材と「みなす」、もしくは分析調査を実施しなければなりません。
しかし、炉設備・焼却設備・電気設備など工作物よっては、施設の運転時には分析検体の採取ができないことが多いかと思います。
よって、分析調査が困難な資材については、あらかじめ発注者・施設管理者などの関係者とアスベスト含有資材の判断方法について協議し、分析検体の採取には、施設管理者と事前に日程を調整・定期点検時に実施するなど、安全に配慮した十分な計画が必要となります。
また、排水・雑水などの重要度が低い部位については、定期点検や改修などがされていない場合があります。
これらの部位のガスケット・パッキンは劣化が激しい場合があり、分析検体採取時にかえって粉じんの飛散・ばく露の恐れがあるので、注意が必要です。
2-3 ポイント3:プラント等、有害・危険物施設での安全管理
石油プラントや焼却施設、発電所など、有害物質や危険物を扱っている施設は、事故や災害が発生しないよう、安全に関する様々なルールが決められています。
現地調査時には、施設管理者や案内人などの指示には必ず従い、事故を起こさないよう細心の注意を払いましょう。

3 まとめ|工作物のアスベスト事前調査は専門家へ
本記事では、工作物におけるアスベスト事前調査の概要について要点を解説しました。
2026年1月1日以降着工の工作物の解体等工事には、有資格者による事前調査の実施が義務化されます。
事前調査が義務付けられている工作物は、特定工作物17種とその他工作物に指定されているものになります。
また、工作物の調査は設計図書だけでなく、点検記録の確認やヒアリングがとても重要です。
サンプリングの必要がある場合は、機械の運転停止や事前の計画をしっかり立てたうえで実施することが重要です。
判断が難しい工作物の調査は、沖縄県での調査実績が豊富なエンバイロアナライザー株式会社へお気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)


