アスベスト事前調査が必要な工事の種類と判断基準

建築物等の解体や改修工事を行う際に、「アスベスト事前調査の対象範囲がわからない」「小規模な作業でも調査が必要なのか」といった疑問を持つ発注者の方や元請事業者の方は多いと思います。

2023年10月からは、建築物などの解体・改修工事におけるアスベスト事前調査について、建築物石綿含有建材調査者などの資格を持つ者による実施が義務化されました
(出典:厚生労働省「令和5年10月1日着工の工事から、事前調査は「建築物石綿含有事前調査者」が行う必要があります!」)。

判断を誤ると、法令違反や工期の遅延といった重大なリスクにつながります。

そこで本記事では、調査が義務となる工事の種類や、建築物・工作物の判断基準を具体例とともに解説します。

要約

  • アスベスト事前調査は、既存の建材を破砕・切断・穿孔するなどすべての解体・改修工事で義務化
  • 調査は、資格者による書面調査・目視・分析で実施され、発注者と元請事業者に法令遵守の責任あり
  • 小規模な作業であっても、既存の建材に干渉する場合は事前調査の対象となり、建築物の用途に応じた配慮が必要
  • 分析の誤判定を防ぐためには、複数の層からなる建材の採取時には注意が必要
目次

1 アスベスト事前調査が義務となる工事の定義

1-1 義務となる工事の具体的な種類と作業例

アスベスト事前調査は工事の規模にかかわらず、すべての事業が対象です。

具体的には、建物の解体や改修などの作業で、既存の建材を破砕・切断・穿孔・剥離する行為を行い、アスベストを含む可能性のある部位に影響を与えるすべての作業を指します。

典型的な作業例

  • 建築物の解体一式
  • テナント原状回復に伴う内装改修
  • 間仕切りの撤去
  • 床仕上げ材の撤去
  • 天井材や石膏ボードの取り外し
  • ALCボードやサイディングボード等の外壁材の撤去
  • スレート屋根の改修、屋根下地の補修
  • 配管や空調ダクトの保温材交換
  • ボイラーや煙突等の改修に伴う保温材、断熱材の撤去
  • タイル目地や接着剤の除去
  • 電気配線更新に伴う開口部の新設・拡張

設備・電気・空調の軽微な作業であっても、壁・床・天井の下地や貫通部、機器基礎やケーブルダクトに干渉し、既存の建材に切断や穿孔を伴う場合は、規模に関係なく調査義務が発生します。

一方で、機器の据え置き交換など、既存の建材に一切手を加えない作業は調査対象外となる場合があります。ただし、その判断には、書面と現地調査に基づく根拠の提示が必要です。

1-2 調査の基本構成(書面・現地・採取分析)と主な義務

調査は、次の3つのステップで構成されます。

  1. 書面調査:設計図、仕上表、仕様書、竣工図、改修履歴、製品名や規格を確認します。
  2. 現地調査:仕上げや下地、層構成の有無を確認し、書面調査との差異がないかを確認します。
  3. 分析調査:必要に応じて分析検体を採取します。複数の層からなる建材は層ごとに採取し、建材組成が不均一になっている可能性が高い建材は代表性を確保できるように採取します。

調査結果は、調査対象範囲、根拠資料、分析検体の採取位置と採取数、分析方法、分析結果を記録し取りまとめます。

主な義務

アスベスト事前調査の実施は、発注者と元請事業者に一定の義務が生じます。

  • 発注者
    ・調査対象建物に係る資料等の情報提供
    ・調査費用やアスベスト除去工事費用の負担
  • 元請業者
    ・対象工事の事前調査結果の報告

(出典:厚生労働省「石綿対策は「皆さま」に関わる問題です」

アスベスト事前調査対象の建材かどうか確認している作業状況

2 アスベスト事前調査対象となる建築物・工作物の条件

2-1 調査対象となる建築物・工作物とは?判断の起点

アスベスト事前調査の対象には、戸建、集合住宅、店舗、工場などすべての建築物だけでなく、ボイラー、煙突、配管設備、焼却設備といった工作物も含まれます。

これらを解体・改修する場合は、事前に特定建築材料の使用有無の確認が必要です
(出典:環境省「大気環境中へのアスベスト飛散防止対策について|規制の対象となる作業」)。

2-2 疑わしい部位や材料(吹付け材、保温材、スレート等)の確認ポイント

アスベスト事前調査で優先的に確認すべきなのは、「特定建築材料」です。

  • 石綿含有吹付け材(レベル1)
  • 石綿含有保温材・断熱材・耐火被覆材(レベル2)
  • 石綿含有成形品(レベル3)
  • 石綿含有仕上塗材

具体的には、以下の建築材料が該当します。

表 特定建築材料に該当する建築材料の例

発じん性建材の種類建築材料の具体例(製品例)主な使用箇所の例
著しく高い石綿含有吹付け材
(レベル1)
吹付け石綿、石綿含有吹付けロックウール、石綿含有ひる石吹付け材、石綿含有パーライト吹付け材鉄骨の梁・柱、機械室、ボイラー室の天井や壁
高い石綿含有保温材
(レベル2)
石綿含有保温材、けいそう土保温材、パーライト保温材、バーミキュライト保温材、水練り保温材配管、ダクト、ボイラー、加熱炉の断熱材、ガスケット、パッキン
石綿含有断熱材
(レベル2)
屋根用折板裏断熱材、煙突用断熱材屋根の裏側、煙突
石綿含有耐火被覆材
(レベル2)
石綿含有耐火被覆板、石綿含有けい酸カルシウム板第2種鉄骨造の耐火区画、エレベーターシャフト、梁、柱の耐火材
レベル3(比較的低い)石綿含有成形品
(レベル3)
石綿含有成形板、石綿含有セメント管、押出成形品屋根材(スレート)、外壁材(サイディング)、天井板、床材(Pタイル)、シール材(ガスケット、パッキン)
石綿含有仕上塗材石綿含有建築用仕上塗材外壁のスタッコ、リシンなど(仕上げ塗装)

これらは年代や製品によって石綿を含む事例があるため、疑わしい部位として優先的に確認します
(出典:環境省「大気環境中へのアスベスト飛散防止対策について」)。

2-3 築年数や改修履歴による材料混在の注意点

一見すると同じ建材(異なる階の天井石膏ボードや異なる部屋の床Pタイルと接着剤等)の様に見えても、作業工区や改修工事に伴う年代差によって材料が混在することがあるため注意が必要です。

3 工事規模や用途別の判断基準と注意点

3-1 小規模作業でも事前調査が必要な理由

事前調査が必要かどうかを判断する基準は、作業内容や面積の大きさではありません。

重要なのは、既存の建材にアスベストが含まれている可能性があり、その建材に切断・穿孔などの作業を行うことで、石綿が飛散するおそれがあるかどうかです。

そのため、アンカーの打ち込みやスリーブの新設といった小規模な作業であっても、既存の建材に手を加える場合は、調査を行う必要があります
(出典:厚生労働省・環境省「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」)。

3-2 医療施設・商業施設・住宅など用途別の調査配慮事項

施設の用途によって、調査時に考慮すべきポイントが異なります。

  • 医療施設・教育施設・食品工場など
    空気の清浄度や衛生管理が厳しく求められる施設では、調査段階から工程の分離や作業区画の整備の可否、作業時間帯の制約などを計画に組み込む必要があります。
  • 商業施設やオフィスビルなど
    テナントの入退去スケジュールに合わせることや調査時間が営業終了後になることも多く、厳しい条件下での効率的な調査が求められます。そのため、見積もり段階で書面調査や調査範囲を絞ったサンプリングを計画するなど、順序立てた計画立案が重要です。
  • 住宅
    増改築やDIYによる改修で、異なる建材が混在している場合があります。同様な部位名でも部屋ごとに建材が異なることがあるため、代表性を確保した採取位置の設定が必要です。

3-3 誤判定を防ぐための検体採取・層別分析の重要性

調査の際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 複数の層からなる建材の層別採取
    例えば「下地+接着剤+床材」や「下地+接着剤+壁クロス」など、複数の層で構成される異なる建材は、コンタミ防止やアスベスト含有箇所を特定するため、それぞれ別試料として採取する場合もあります。
  • ロットや施工時期の違いを考慮
    異なるロットや施工時期、施工者ごとにサンプルを分け、同じ建材名でも工区ごとの違いを確認します。

4 まとめ|アスベスト事前調査の対象工事と判断基準の要点整理

本記事では、アスベスト事前調査の対象工事と判断基準について、法令遵守のために押さえるべき要点を解説しました。

  • 解体、改修、補修など、既存の建材を破砕・切断等をする可能性があるすべての作業(規模の大小を問わない)が義務の対象です。
  • 調査は、発注者と元請事業者に一定の義務があり、費用や工期等についての配慮や関係法令に定められた措置等を行う必要があります。
  • 特に、築年数や目視のみで「不要」と判断することには注意が必要です。

正確かつ安全に工事を進め、様々なリスクを回避するためには、専門知識に基づいた的確な判断と、質の高い調査が不可欠です。

アスベストでお困りの際は、沖縄での調査実績と資格を持つ当社へまずはお気軽ご相談ください。

よくある質問(FAQ)

小規模な作業でもアスベスト事前調査は必要ですか?

はい、必要です。数量や面積の大小ではなく、既存の建材にアスベストが含まれている可能性があり、切断・穿孔・剥離などを行う場合は必須です。そのため、アンカー打設やスリーブ新設といった小規模な作業でも調査義務があります。

アスベストが含まれていないと判断された場合、記録は不要ですか?

アスベストが含有していない場合でも、調査記録は必要です。記録は解体等工事終了後3年間保管しなければなりません。

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